転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


20 驚愕の事実



 丘を下り、目の前に広がる大きな畑を越えて僕たちは、やっとイーノックカウの西門へとたどり着いた。
 そこには町に入るための順番待ちの列ができていたんだけど、時間が中途半端だったからかそれ程待たされることなく僕たちの番がやってくる。

「グランリルの村からですね。身分証明ができるものの提示を。ああ、冒険者カードですね。はい結構です。では入街税一人50セント、二人で銀貨1枚です。はい、確かに」

 多くの人を裁かなければいけないからなのだろう、流れるような手際で入街検査は終わり、お金を払うことで僕たちは衛星都市イーノックカウに入る事ができた。
 ただその時に一つ気になる事があったので、僕はお父さんに聞いてみる。

「ねえおとうさん。まちにはいるときのおかね、ひとり50セントでいったのに、あのひとはなんで、はらうときはぎんかのまいすうをいったの?」

「ああそれはな、計算ができる人が少ないからだ」

 お父さんの話によると、この街を訪れる商人以外の人たちは簡単な足し算でもできる人があまり多くないらしくて、もしセントで言うと払う方がどれだけのお金を出せばいいのか解らなくなる事があるらしい。
 そうなると一人ひとりの対応に手間取って外門が閉じる時間近くだと手続きができずに街に入れないなんて人が出てきたり、朝夕の通行する人が一番多くなる時間帯だと検査待ちの列が長くなりすぎて迷惑がかかるから、どの貨幣を何枚って言い方をするんだってさ。

「街では入場時だけじゃなく、買い物も基本的には貨幣の枚数で表すのが普通だな。セントと言う単位で取引してるのはたぶん商人くらいだろう」

 確かに殆どの人が単純な四則計算もできないのなら、通貨単位よりどの貨幣を何枚と言う表記での取引の方が断然早いし簡単だ。
 ただできる方からすると、セントで現してくれた方が計算が楽なんだけどなぁ、なんて思うんだけどね。

 こんな会話をしながら、僕たちは町の中を馬車で移動する。
 目指しているのは北門の近くにあると言う冒険者ギルドだ。

「ギルドについたら、ぼくのとうろくをするんだよね?」

「いや名前を書くだけで終わるG級ならともかく、ルディーンはF級登録だから時間も掛かるし、今日はもう夕方だからそれはまた明日だ」

 なんと、今冒険者ギルドに向かっているのは僕の登録の為ではないらしい。
 じゃあ、なんで今向かっているんだろう? そう思って聞いてみると、

「積んできた荷物を冒険者ギルドに売ってしまわないと。これらを積んだままにしておいたら宿に泊まることもできないからな」

 と、少し考えれば至極当然な答えが返ってきた。
 確かにこの馬車にはかなりの大金になるであろう物が一杯積まれているんだから、このまま宿の馬車置き場に置いておく訳には行かないよね。

 と言う訳で、やって来ました冒険者ギルド。
 とは言っても目的地はギルド正面入り口じゃないみたいで、なんとお父さんはその入り口の前を素通りして馬車をなおも先に進めたんだ。

「どこいくの? ギルドってここだよね?」

「ああそうだ。だけどな、魔石とかの小さなものならギルドのカウンターでも買い取りしてもいいだろうけど、倒したばかりで血まみれだったり、例えそうじゃなくても解体前の大きな魔物とかまでカウンターに持ち込まれたらギルドとしても困るだろ? だから買取は普通、裏側でしてもらうんだよ」

 なるほど、どうやら魔物の買取は専用の窓口が冒険者ギルドの裏側にあるらしくて、お父さんはそこを目指して馬車を進めているみたいだ。
 そして馬車は僕の想像通り、冒険者ギルドの大きな建物をぐるっと回って裏側にある倉庫のような場所へと入っていった。

 するとギルドの職員だろうか? 制服のような物を着て、手に何やら板と筆記用具を持った女の人が馬車の方へと歩いてきた。
 そして、どうやらこの人とは顔見知りだったようで、近づいてくる女の人に向かってお父さんは馬車から降りると自分の方から先に声を書けた。

「ニールンドさん、こんにちは。村で取れた素材の買取をお願いします。後こいつは俺の息子で」

「ルディーンです。8さいです。よろしくおねがいします」

 お父さんに即されて、僕はお姉さんに挨拶をした。

「こんにちは、ルディーン君。スティナ・ニールンドです。此方こそよろしくね」

 するとお姉さんも僕に向かって微笑みかけながら挨拶をしてくれた。

 このスティナ・ニールンドさんは金髪でレイヤーの入ったシャギーカットのショートカットと人懐っこそうな大きな青い瞳が特徴的なお姉さんで、歳は二十歳くらいかなぁ? 僕の予想通り冒険者ギルドの買取を担当しているみたい。
 とてもニコニコしていて優しそうな人なんだけどお父さんが言うには、

「ああ見えて、買取査定には結構厳しいんだぞ。毛皮とかも、傷が大きかったりしたらかなり買い叩かれるしな」

 と言うように、結構シビアな人らしい。
 まぁ、冒険者ギルドに素材を売りに来るような人を相手にしているんだから、それくらい気が強くないとやっていけないんだろうね。

 挨拶が済んだ後はニールンドさんの仕事を見るくらいしかやる事がなくなる。
 だって荷を下ろす仕事はギルドの男の人が全部やってしまうし、お父さんはこれは何の魔物の素材かと聞かれてはその度に答えないといけないから僕の相手をしているわけにはいかないからだ。

 ただそんな光景を見ているうちに、僕はある事に気が付く。
 それは僕にとって見過ごせない、いや聞き過ごせないと言った方がいいかな? そんな内容だった。

「カールフェルトさん、これは何の毛皮ですか?」

「ああ、これはファング・ラッドですね。灰色が濃いから上位の魔物に変異する手前だったのでしょう」

「カールフェルトさん、この魔石ですが……」

「カールフェルトさん、……」

 もう我慢できなかった。

「ちがうよ!」

「えっ?」

 僕はニールンドさんに近づき、彼女の上着の裾を引っ張ってこちらに注意を向けてからそう言った。

「どうしたの、ルディーン君?」

「おとうさんのなまえは、かーるふぇるとじゃなくて、はんすだよ! まちがえちゃだめ!」

 誰かと間違えているのか、ニールンドさんはお父さんの事をカールフェルトさんって呼んでたんだ。
 お父さんとしては別に名前が違っても買い取り価格が変わらなければいいと思ったのか、別に気にしてない様子だったけど、僕にはそれがどうにも我慢できなかった。
 だからお仕事の邪魔になるのは解っているけど、注意しなきゃって思ったんだ。

 ところが。

「えっと、カールフェルトさん。ルディーン君は一体何を?」

「ああ、それはその……あははははっ」

 僕の話を聞いてもニールンドさんは何を言われているのかが解らないのか、お父さんに向かって僕が何の事を言っているのかと聞いているし、その聞かれたお父さんも何やら気まずい顔をして笑うだけ。
 そんな二人を見て僕はちゃんと解るように説明しなくちゃって思って、きちんと言いなおした。

「だから! ぼくのおとうさんのなまえは、はんすなの。かーるふぇるとってひとじゃなくて、はんす! まちがえちゃだめ」

 ここまで言えばニールンドさんにもちゃんと伝わるだろう。
 そう思った僕は彼女がお父さんに謝ってくれると、この時は思っていた。
 でもそうじゃなかったんだ。

「カールフェルトさん、もしかして……」

「……」

 驚いたような顔をしてお父さんを見つめるニールンドさんと、無言で目をそらすお父さん。
 予想外の展開に僕は何が何やら解らず、心配になってお父さんの袖を端を掴んだ。

「おとうさん、どうしたの? おとうさんのなまえは、はんすだよね? ぼく、まちがってないよね?」

 そしてそうお父さんに確認したんだ。
 ところが、その質問に答えを返してくれたのはお父さんじゃなかった。

「ええそうよ。ルディーン君のお父さんの名前は間違いなく『ハンス・カールフェルト』さんよ」

「えっ?」

 僕は何を言われたのか一瞬解らなかった。
 ハンス・カールフェルト? カールフェルトって何? お父さんの名前の後ろになんでそんなのが付いてるの?

「カールフェルトさん、まさかとは思いますが、ルディーン君に自分のファミリーネームを教えていないなんて事はないですよね?」

「えっと……グランリルの村では使わないし、ルディーンはまだ8歳でイーノックカウにつれてくるのはまだ先だとつい最近まで考えていたもので、つい言いそびれてまして」

「あきれた! 自分のフルネームですよ。言葉が話せるようになった時点で教えるのが当たり前でしょう!」

 非常識にもほどがあると叱りつけるニールンドさんと、そんな彼女を前に小さくなるお父さん。
 そんな二人の姿を見比べて、僕はなんとなく今の状況が飲み込めてきた。

 そしてそれを確認する為に、こっそりと自分のステータスを開く。
 するとその名前の欄には、ルディーン・カールフェルトと書かれていた。

 この時初めて僕は自分にファーストネームだけでなく、ファミリーネームもあるんだと知ったんだ。


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